「さぁさぁ、真白ちゃんまだ残ってるよ。俺ら食べちゃったよ」

 タケさんに促されて、あたしは慌ててサーモンサンドの残りを頬張る。正直、もう入らないんだけど、無理やり詰め込んだ。味も分からないよ……シリアスな出来事で食事が喉を通らなくなるのは、いつものことだけど。


 急いで食べたサーモンサンドは胃を膨らませ、苦しい。あたしが食べ終わるのを待って、店を出る。やめてくださいって言ったんだけど、タケさんが奢ってくれた。「二輪免許取ったら俺に奢って」だって。

「俺、誠太郎のこと送って帰るから。真白ちゃん気をつけてね」

「タケさん達も気をつけて。ありがとうございます。ご馳走様でした」

 タケさんにお礼を言う。誠太郎さんは笑顔で「またね」と言ってくれた。

 光太郎さんに似た眼差し。彼より少し線が細いけど。笑顔を返す時、誠太郎さんの左腕をちらっと視線を走らせる。

「兄貴に会ったら、よろしく言っといて。たまに帰って来いって」

 あたしの視線に気付いただろうか。分からないけれど、誠太郎さんは笑顔でそう言った。

 2人と別れて、レインウエアが入ったビニール袋を抱え、曇り空を見上げる。光太郎さんの心は彼しか分からない。でも、あたしも分かりたい。おこがましいかもしれないけれど、でも、それも含めて光太郎さんなんだ。
 どうしようもなく、惹かれてる。

 あたしの存在なんてちっぽけなものだけど、いまの、このあたしの気持ちだけは大きい。

 深呼吸して、梅雨空の空気を吸い込む。湿った風は、束ねた髪の毛を揺らして行った。


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