それから何回かの注文と電話を捌いて、6個の豚しょうが焼き丼の盛りつけが終わった。準備はオッケー。なんて悠長に構えてる暇なんか無いんだけど。電話注文は他にもあるし、ちょうど11:30って混み合う時間帯なんだよね。

 その時、背の高い人影。人影っていうか、ガラスだから歩道が見えるんだけど。

「いらっしゃいませ……」

 ぱっと目が合う。光太郎さんだ。バイクショップ・ミナセの真っ赤なつなぎ。目立っている自覚はあるんだろうか。

「い、いらっしゃいませ!」

 なんで2回言うんだよ。

「あー、豚しょうが焼き丼6個頼んでた、ミナセです」

「あ、はい! ミナセさま」

 やっぱり。大正解。でもショップの名前であって、光太郎さんの苗字じゃないんだよね、たぶん。
 ニヤニヤしそうになるのをこらえて、豚しょうが焼き丼を3個ずつビニール袋に入れて、渡した。

「お会計3600円になります」

「じゃあこれで」

 5000円札をお預かりし、お釣りを渡す。ああ、今日もやっぱり豚しょうが焼き丼なんだね。6個、みんなで食べるのかなぁ。背が高いなぁ。今日もスクーターで来たのかな? なんかちょっとボロっちいスクーターだったけど。ていうかあれ原付なのでは。

「あ、袋ひとつにしましょうか?」

「え?」

 ふたつの袋を渡した時に、あっと気付いた。

「あの、いつもスクーターで来てらっしゃるから……」

 手に持って運転するの、危ないと思う。リュックとか背負ってないし。

「ああ、大丈夫、シートの下に荷物入れられるから」

「そ、そうなんですね!」

 知らなかった、椅子……じゃないシートっていうのか。それの下に荷物が入るだなんて。

「よく見てるんだね、お客のこと」

「?」

「スクーターで来るって、分かってる」

「あ……はい」

 常連さんになると、大体覚えるよね。客商売ってそういうところ、大事だと思う。今、たまたまなのか何なのか、店にお客さんが居ない。ちょうどはけたところ。でもきっとすぐ来る。

「今日、店のみんなで食べようってなって。ここの豚しょうが焼き丼。俺が美味しいって言ったから」

 手に持った豚しょうが焼き丼6個をくいっと持ち上げて、にっこり笑う。笑った顔、あたし胸に焼き付けるね。

「そ、そうなんですね。ありがとうございます」

「店長が食べたいって、電話したんだ」

 電話くれたの、店長さんかぁ。

「じゃ」

「あ、ありがとうございましたー!」