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 次の日、自転車を颯爽と走らせてサクラクックにたどり着いたあたしは、先に来ていた店長夫婦に挨拶して、掃除を始めた。レジカウンターを整理してゴミを片付け、お弁当陳列ケースのガラスを拭く。

 陳列ケースと言っても、並べられているのはフェイクだ。食品サンプルってやつね。ちょっと出来上がり実物とは違う気がするけれど、だいたいよね、こういうのって。食品サンプルのメニューは、ずっと変わらないレギュラーメニューだ。

 新メニューが開発されれば、写真を撮ってポスターを作ったりする。ポスターは店長と奥さん、あたしで考えるんだ。メニューは店長の気まぐれだったりするけれど。


「今月、魚の限定メニュー出すぞ」

 そんなことを言い出せば、毎日魚の試食が行われる。煮たり焼いたり、フライにしたり。店長、あたし太っちゃいます。

 今度、豚しょうが焼き丼デラックスとかどうだろう。豚しょうが焼き丼に、味噌汁とポテサラ付けて、唐揚げも付けるの。

 店の開店は10時だけど、開店と同時にお弁当を買いに来るお客さんはたくさん居る。遅い朝ご飯とか、早めのお昼ご飯かもしれない。一度看板の電気を入れ、シャッターを開ければ、休まる時間なんて無いのだ。お弁当屋は忙しい。なんて考えてるうちに本日初めてのお客さん。時計は10:03。女性のお客さんだ。

「カツ丼5個ください」

「カツ丼5個ですね。お時間いただきますー!」

 あたしは注文を厨房に伝えると、レジで金額を計算し、お会計を先にした。


 4月に入ってから、やっと暖かくなってきたって感じ。行楽に持って行くのだろうか、5個とか6個とか注文されるお客さんが居る。家族で食べるんだろうなー。いいな。うちのお弁当は美味しいよ。

「幕の内ひとつと……日替わり弁当って、今日は何ですか?」

「今日は……白身魚のフライとアスパラベーコン炒め、煮物とポテトサラダです」

「じゃあそれひとつ」

「はい。ありがとうございます」

 ほらほら、忙しくなってきた。こうして午前中はあっという間に過ぎて行く。


 バタバタと注文を捌いていると、電話が鳴った。出前はしていないけれど、取りに来る時間を言って貰って、それに合わせて注文されたお弁当を作っておくということはやっている。

「はい、サクラクックです」

 サラダを盛っていた手を止めて、電話に出る。

「11時半頃取りに行くんで、注文できますか?」

「はいお作りいたします。ご注文どうぞ」