もっと上手くなりたい。もっと上手に運転できるようになって、光太郎さんに褒められたいな。もちろん、自動車学校の先生にもだけど。というか、まず卒業することだけど。免許を取らないと始まらないんだけど。
光太郎さんの負担になってるかもしれない。「俺が決めたことだ」って言ってくれたけど。でも……会いたい。
ミナセが近付くにつれて、動悸が激しくなる。ペダルを漕ぐリズムと鼓動がバラバラで、でも激しくて、息が苦しい。呼吸が浅い。
ショップ看板が見えて来たから、大きく息を吸った。ん? 人が立ってる……。こ、光太郎さんだ。出迎えてくれたんだ。
「おつかれさーん」
背の高い光太郎さんは、長い両腕を挙げて、あたしを迎えてくれた。ブレーキがうまくかからなくて、停止してぐらついてしまった。
「どーした、疲れた?」
「は、はい……ちょっと」
もたもたと自転車を降りて、来店のお客さんの邪魔にならないような場所に止める。
「大丈夫だよ。邪魔だったらスタッフが移動させると思うから」
光太郎さんの優しい言葉で、少し緊張が解けていく。会いたくて、それを意識してしまったからか、なんだか目を見られない。
「すみません、仕事中なのに……」
「いいって、気にしなくて。それより、今日はどうだった? なにやったの」
裏に行こう、そう言って光太郎さんは歩き出した。もう原付は用意してあるのかな。長い足は歩幅も大きくて、あたしは少し小走りで隣に並んだ。
「今日は、クランクをやったんですけど、もう全然だめで。壁ですね……自信喪失です」
教習中のことを思い出して、暗い気持ちになってしまった。はぁ……そうだよ、今日は全然だったんだよな……。テンションが上がったり落ちたり、忙しいあたしの気持ち。疲れるなぁ。
ショップの裏手に回る。すると、この間乗ったエイプ50が止めてあった。用意してくれていたんだ。本当に、なにからなにまで申し訳無いなぁ。
「先生になんて言われた?」
教習を反芻する。いろいろ言われたけど、要点は自分で分かってる。
「目線が近い。進む方向に頭を向けるのが遅い。ニーグリップがなってない……とか。頭で分かってるんですけど、いざやるとなるとできなくて。パニックになるというか」
「バイク慣れしてないもんね、仕方ないと思うけど。怖くて下見ちゃうんだよね」
そうなんだよね……怖いのもあるし、また転ぶんじゃないかと思ってしまう。両親と自転車の練習をしてた時のことを思い出すなぁ。



