見かねた先生がまた手を貸してくれた。起こせない。どうしても起こせない。うう……。コツだって言われても、絶対的に力が足りない気がする。

「力だけで起こしてもなかなか起きないんだよね。コツさえ掴めば細くて小柄な女性でも起こせるんですよ」

 細くて小柄じゃないけど起こせません……。起こせないのもだけど、クランクは初っぱなからこれだ。先が思いやられる。

「視線が近すぎるし下ばかり見てる。バイクは見た方向に進むものだから、もっと先を見てください。さっき言ったように、最初の角を曲がったら、もう出口に視線を向けて」

「は……はい」

 起こされたバイクはエンストしてて、先生がエンジンをかけてくれた。そしてまたスタンドを払って乗車。発進。ああ、これで乗車と発進は上手くなりたい。

 また戻って、左折合図からのクランク進入を開始する。次は成功させるぞ。速度を作って、すっと通りたい。すっと、すっと……すっ。

「……とっとっとっ!」

 左折から進入してすぐ右折。そこでバランスを崩してしまった。右側に倒れそう。右足を着いて踏ん張る。やばい、また倒れそうだよ……!

「うう、やばい」

 ああ……だめだぁぁ!
 ガシャン。また倒れてしまった。だめだ、出来る気がしない。心どころか、色々なものが折れそう。

「目線がまだ近い。あと、上半身ガチガチすぎるから、もうちょっと力抜いて。タンクを足できちんと挟んで……ニーグリップね。しっかりバランスを取ること。OK?」

「はい!」

 バイクは先生が起こしてくれた。もう引き起こしの期待はされてないみたいだ。
 次こそは……返事ばかり良しじゃいられない。あたしは深呼吸をして、自動車学校の建物に付いてる時計を見た。教習時間の半分くらい過ぎたところだ。この調子じゃ後半はクランクで終わりそう。

「じゃもう1回」
「はい」

 ヘルメット良し、グローブ良し。

 よたよたしながらクランクを出て、ゆっくりまたクランク入口の方に回る。左折合図、それから進入。ゆっくり過ぎると失速してバランスを崩すから、右折する時にスピードを上げたい。ニーグリップしっかり。目線は出口だ!

 言い聞かせながらクランク進入……今度は、右足を付いてしまったけれど、転ばずにクランクを抜けることができた。

「やった……出た」

 転ばなかったぞという嬉しさで、ちょっと笑顔になってしまった。先生にパアアっていう笑顔を向けてしまった。

「ちょっとバランス崩してしまうね。足を着いたのは惜しかった。はい、もう1回」