いつもの忙しさだ。別段変わりはない。そして、お昼前になった。

「来ないのかなー」

 お客さんは来てるけどね。誰が来ないのかって、光太郎さんだよ。まぁ、この間ショップに行った時、13時過ぎてたけど「これからお昼」って言ってたし。忙しいのかもしれない。
 せっかく心を込めて書いたホワイトボードは、来店のお客さんには効果てきめんだったけど、見て欲しい人が来ないのです。ボードを掲げてから、日替わり弁当の注文が続いた。

「いらっしゃいませー」
「……んーと……じゃあ日替わり弁当ひとつ」

 男性のお客さん1人。棚にあるインスタント味噌汁を取って「あとこれも」とカウンターに置いた。この人は常連さんだ。薄いグリーンの作業服でいつも買いに来るんだ。

「こういうの無かったよね。分かり易くていいね」
「ありがとうございます~」


 やったね、誉められた。
 ブルル……開いている店のドア。そこから入ってくる、マフラー音。マフラー音だけで車種を判別できたら、きっと通。というかオタクだよね。外に止まったスクーター、赤いつなぎ。

「日替わりひとつー」
「はーい」

 奥さんの声がする。いったん厨房へ行き、お弁当を取って、サクラクックの名前入りのペーパーを巻いて、輪ゴムで留める。ビニールに入れて、そして、振り返ってみると……赤いつなぎの人は、光太郎さんではなかった。でも、胸には「バイクショップ・ミナセ」の刺繍。

 作業服の常連さんに日替わり弁当を渡して、お会計を済ませる。

「ありがとうございましたーいらっしゃいませぇ」

 ミナセから、光太郎さんじゃない人、初めて来たな。うーん、残念。赤いつなぎだから、光太郎さんと同じく整備の人なんだろうな。歳の頃は、光太郎さんと同じくらいだろうか。

「日替わり弁当、ひとつ」

「はい、ありがとうございます」

 また日替わり出た。今日はバカ売れですね。

「日替わりひとつでーす」

 日替わりがけっこう出るから、店長は白身魚のフライをたくさん揚げている。からあげも。暑いから汗だくだ。ホワイトボード効果だね。