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「はぁ」

 次の教習は、次のお休みの日。2時間連続で乗ることにしていて、不安だけど、週1時間しか乗ってなかったら、免許取得に時間がかかってしまう。時間ある時に、乗れる時に乗らないと。やったことを忘れそうだし。

「どうしたのため息なんかついて」

 開店前のサクラクックで、奥さんと並んで野菜を切っている。あたしは人参、奥さんはごぼう。きんぴら用の人参とごぼうだ。ごま油で炒めて、仕上げにごまをふって、とっても美味しいんだ。白いご飯に合う。

「いえ実は、いま自動車学校に通ってて」

「あれ? 真白ちゃん普通免許持ってるよね。ペーパー教習?」

 ボウルにはまだ半分。付け合わせだから少しずつしか入らないけど、このボウルひとつ分は切らないといけない。

「バイクの免許です」

「ええ? バイクうう!?」

 奥さん、驚きすぎです。目玉が飛び出そうなほどびっくりして、包丁が止まってる。

「あたし原付くらいしか乗ったことないわー。しかもちょっとだけ。なんでまたバイクなの」

「まぁ、人生にターニングポイントってあるわけですよ。いろいろ」

 偉そうに言ってみたけど、別にそんなにたいそうな理由じゃない。できれば公表したくない。

「乗りたくなったんです、急に」

 お前は少年漫画の主人公か。

「素敵だったんです。格好良くて、あたしも乗ってみたいって思ったんです」

 そうだよ、それは嘘じゃない。
 乗ってたのが光太郎さんじゃなくても、きっと二輪免許を取りたいと言ったはずだときっと。(たぶん、おそらく)

「どうしたんだ」

 また店長が横から入ってきた。この人は、あたしと奥さんがキャッキャしてると入って来る。混ざりたいだけなんだよね。

「真白ちゃん、バイクの免許取ってるんだってーいま」

「自動車学校通ってんのか?」

「はい」

 へぇ~とひとこと言って、冷凍の白身フライの袋をどさっと冷凍庫から出す。日替わり弁当とミックスフライ弁当には白身魚のフライが入るから。