「真白ちゃんて、いくつ?」

 頭の上から降ってきた光太郎さんの声にハッとする。

「先月、26になりました」

「2つ下だ。なんか、もっと若く見えるね」

 おや、誉められてるんでしょうか。ということは、光太郎さんは2つ年上で28歳。大人なんだなぁ。

「なんかさ、新しいこと始めてワクワクすんね。いいね。若いって良いな」

 そんなにニコニコして。他人のことなのに。

「光太郎さんだってまだ若いでしょう」

「気持ちはいつまでも少年ですけど」

 そんな自慢気に言われると、笑っちゃう。

「ぷ……」
「笑うなよ」
「アハハ」

 少し癖のある黒髪は、赤いつなぎに合っていて、背の高さは、影も長くするね。地面を見ると、あたしの影と光太郎さんの影。あとエイプ。3つの影が並んで歩いていた。

「それじゃ、また」

「ショップに来てくれても良いけど、名刺あげたじゃん? 電話くれれば良いから。せっかく来ても、俺居ないと困るし」

「はい」

 リュックにヘルメットを入れて、自転車に跨る。

「じゃ、気を付けて」

「ありがとうございました」

 ペダルを漕いで、走り出す。後ろを見ながらは走れないけど、小さく離れていく光太郎さんを、本当はあたしが見送りたかった。

 いつまでもあのまま、一緒に居たいなと思ってしまう。

 曇り空。あたしの心はフワフワ浮ついて、ペダルを漕ぐ足は、なんだか自分の足じゃないみたいだった。

 *