それから3回、電柱と光太郎さんの間を往復して、練習は終わりになった。

「お疲れさま。ちょっと練習しただけでも違うと思うよ」

「ありがとうございます。なんてお礼をして良いのやら……」

「いいんだよそんなこと。俺が練習誘ったんだしねー」

 ヘルメットを取ると、風が脳みそを吹き抜けていくみたい。必死になりすぎて汗だくだ。
 バイクの大きさは小さいけれど、重さも比較にならないけれど、ギアやアクセル、ブレーキの練習にはなるし、その練習効果は大きいと思う。

「練習、楽しかったです」

「俺も。またやろう。っていうか、卒業するまでちゃんと俺、サポートするから」

 どうしてそんなにしてくれるの……? 恐るべし男子力。まぁな……あたし客だしな……バイク買って貰うならって思ってるだろうな……。

「なんか暗くない? どうした険しい顔して」

 思い詰めて怖い顔になっていたらしい。笑顔、笑顔。

「いやあの、なんかお仕事中なのに、申し訳なくて……ヘルメットまでいただいて」

「そんなことないよ。俺こそ、二輪免許焚きつけちゃったかなって反省してる」

 さっきまであたしを乗せてたエイプちゃんは、光太郎さんの手でエンジンが切られる。

「そんなことは……! 自分で決めたことですし」

「俺も自分で決めて、真白ちゃんに教えてるんだよ」

 心臓が、ドキンとかドクンじゃなくて、ビリッとした。病気? いや健康診断では問題無かったもの。

「ありがとう……ございます」


 淡い恋心とか、憧れだとか、そういうのだって、結局大きくなれば自分で止められなくなっしまう。綺麗なままでいられなくなる。

 まだあまり知らない光太郎さんを、あたしは。