恋ごころトルク


 え、今から? うそでしょ……練習ありがたいけど。そのバイクは一体……。結構突拍子もないこと言うな、光太郎さん。

「これから用事あるなら無理には」

「いえ、無いです!」

 即答してしまった。「じゃあ決まり」と、光太郎さんは指を鳴らす。鳴ってなかったけど。

「ヘルメット持ってる?」

「あります」

 背負ってるリュックを指さす。グローブもあるし。

「俺が乗ってたやつなんだけど、いまこれ乗ってないし、感じは掴めると思うから」

 わあ、なんだこれ。小さいけど可愛いな。スクーターとは違う。

「これ、エイプっていうの。ギア車だからギアチェンジの練習できるよ。重さは全然違うけど。原付だから普通免許で乗れるし」

「これ、原付なんですか」

「そそ。エンジンはね……キックなんだけど、やったことあるわけないか」

「ないですね~」

 あたしは笑ってごまかす。エンジンかけるのにキック? どこ蹴るの?
 自転車よりちょっと大きい感じで、教習車よりずっと華奢。もちろん、形が違う。

「ああ、車校でなに乗ってんの?」

「ええと、ホンダのなんとか……400」

「CB400か。乗りやすいとっても良いバイクだよ」

 乗りやすいっていうのか、あれが。まぁ確かにいきなりでも乗れたけど。だから自動車学校で乗るバイクに選ばれてるんだろうけど。

「CB400はエンジンかける時、セルって言ってスイッチ押したでしょ? この原付はキック始動って言って、右ステップのところにあるこれ、キックペダルって言うんだけど、これを下にキックしてエンジン始動するの」

 光太郎さんは説明しながらエイプに跨って、右足を下に蹴った。ブルルル……あら可愛い音。

「小さいんですね、これ」

 自動車学校のバイクは、エイプの何倍あるんだろう。

「重量半分ぐらいかな、これ」

「自動車学校のバイク、すごい重くて、あたし起こせなかったんです。卒業できるんでしょうかね……」

 そう。あの重さを思い出した。乗ってればなんとかなるけど、乗り降りするのもひと苦労だったし。