「もう乗るバイク決めてるの?」
椅子に置いてあるリュックからはみ出したヘルメットに目を留めたみたいだ。
コーラをぐっと飲み、ポテトをつまむ。ここでお昼食べて、あとショップにちょっと寄って帰ろう。きなこのご機嫌も見ないと。
「まだ決めてないんですけど、あの、こうやって乗るバイク、ああいうの格好良いと思ってます」
あたしは、運転姿勢を表そうと、手と足を前方に出した。伝わるかしら。
「ハーレー?」
「あ、ハーレー格好良いですよね」
乗りたいのはハーレーじゃないけど。
「国産アメリカン・クルーザーでも女の子が乗りやすいものあるから、お気に入りが見つかると良いですね」
女性が乗りやすいのって良いな。この間、光太郎さんが乗っていたのって、あれ素敵なんだよな。ドラッグスター。何ccだか分からないけれど。
「ごゆっくり」
お母さんスタッフがカウンターに戻ると、カップルから短い笑い声。見ると、2人ともジャケットとパンツで、いかにもバイクに乗ってそうな感じ。ヘルメットを並べて置いていた。良いなぁ、ああいうカップル。
かぶりついたチキンサンドはとても美味しくて、気持ちもお腹も満たされた。食べている間、今日これからのことを考えながら。スーパーで買う物は洗濯洗剤と野菜くらいかな。レタスでも買って帰ろう。きなこも好きだから。あとは……いまは二輪免許のことで頭がいっぱい。今日やったことを反芻しながら。まずは免許を取ること。そしてバイクを決めて、買う。カバーやロックを買わないといけないだろうな。アパートの駐輪場、原付は止まってるけれど、大きなバイクは無いもんな。
カラン。コーラをぐっと飲んで息を吐くと、店の入口が空いた。そこから、ひょっこり顔を出したのは、なんと、光太郎さんだった。
「わっ」
思わず小さくそう言ってしまう。あたしには気付いていない様子だけど、カフェのスタッフに用事があるのか、それともそこのカップルにか。あ。こっち見た。手を挙げてる。うわ、こっちに来る。え? あたし?
「おつかれさんすー」
カウンター内の母娘スタッフに声をかけて、こっちに歩いてくる。まじか、あたしか。
「来たね、いらっしゃい」
「こ、こんにちわ」
な、なんで分かったの。そしてなんで来たの。チキンサンドまだ3分の1残ってるし、なんか恥ずかしいんですけど……。あたしは肩をすくめて、椅子に小さく座り直した。カップルの彼女の方がこっちを見ている。
「外に自転車あったから、来てるの分かったよ」
「きょ、教習の帰りで……ちょっと寄ってみようかなって思って」
「そっか。食事中ごめんね。食べ終わったら、下に寄ってよ。俺、居るから」
「はい……」



