恋ごころトルク



 待合いスペースに戻り、今日の反省やポイントのアドバイスを受けて、本日の教習は終了。1時間だけしか予約を取っていなかったので、これで帰ることになる。

「次回の予約取って帰ってね」

 先生はそう言って、事務所に帰って行った。


 ヘルメットを脱ぐと、汗だく。自動販売機で冷たいお茶を買い、ぐっと飲んだ。

「ふう」

 疲れたなぁ。こんなんで大丈夫なんだろうか。ちゃんと卒業できるのかな。先行き不安だわと思いながら、グローブを外す。


「大型ですか?」

 これから教習を受けるために準備をしていた男の人が話かけてきた。歳は……40代かなぁ。

「あ、いえ、普通二輪です」

「お姉さんの身長なら大型大丈夫そうだけど」

 いやいや、体格で決めないで欲しいです……。

「あたし今日初めてなんですけど、重くて重くて……普通二輪で十分です」

「そうー? 中免取ってバイク乗ってると、たぶんきっと大きいのに乗りたくなるよ」

「そうなんですか?」

 ちゅうめん。注意しないと「おじさん古いよー」とか言われかねません。普通二輪ですよ。

「そう、俺もそうだったもん。学生時代に中免取って、でも大きいの乗りたくて、いま大型。ハーレー乗りたいから」

 ハーレー。ハーレー・ダビッドソンのことだね。それくらいは分かる。そっか、ハーレーって大型持ってないと乗れないんだ……知らなかった。ハーレーも格好良いと思う。

「お姉さんもゆくゆくはハーレーだね」

「いやぁ……まずここのバイク乗れるようにならないといけませんね」

 あはは、乾いた笑いを出してしまった。「がんばってね」と、その男の人はヘルメットを被った。

「はい、ありがとうございます」

 なんか、良い人だなぁ。これから何度か顔を合わせることがあるだろう。あたしが卒業するまで。挨拶しないとね。