恋ごころトルク

「そうか、ありがとう。お前、味噌汁届けてくれたぞ。お弁当屋さん」

「え! ああ!」

 もうちょっと早く気付いてください。隣に立ってるんだから。やばいバイク格好良い。バイクに跨った光太郎さん格好良い。やだなにこれすごい。早くエンジン切って降りて早く、即刻降りてください。心臓に悪いから! あたしの心臓、倍速鼓動ではち切れそう。

「うわー申し訳ないです。わざわざ届けてくれたんですか。味噌汁あったの俺も忘れてた」

「すみません。お代いただいてたので、そのままにするわけにもいかなくて……場所分かったんでお届けに」

「ありがとうございます」

 興奮しすぎて、息が切れる。
 エンジンを切り、ヘルメットを抱えて長い足を伸ばしてバイクから降りた。ピカピカのバイク。タンクのところに「Drag Star」と書いてある。

「ええと、”マシロちゃん”ていうんですよね」
「え?」
「名前。厨房からそう呼ばれてるから。真っ白のマシロ?」

 光太郎さんは青空を背負って、格好良いバイクの前に立っている。目の保養。少し長めで形の崩れた髪をぐしゃぐしゃって手で掻いている。ヘルメット被るとスタイル崩れるもんね。

「そうです。よく……聞いてますね」
「ほぼ毎日のことだから。じゃあ真白ちゃんで」

 あ、あたしだって! 光太郎さんの名前が光太郎さんだってこと、光太郎さんがほぼ毎日来るから知ってるんだからね!
 ハンドルを持ってガレージの方に動かす。重たいんだろうな。凄いな。

「おう、戻って弁当だ」

 数メートル動かして、スタンドを立て固定した。ヘルメットを右手に抱えて、あたしを見る。

「ありがとうございました。どうやって来たの?」

「あ、自転車で」

 あたしはショップの前に止めてある自転車を指差す。なんかちょっと恥ずかしい。

「自転車、調子悪くなったりしたら見てあげますよ」
「え? 良いんですか?」

 バイク屋さんは自転車も見てくれるのか! 同じ二輪だけども。

「パンクとか」
「ありがとうございます。もしそうなったら、是非」

 自転車には何の罪もないけれど……ごめん、今すぐパンクしろ。

「今日のお礼に。すみませんでした」

「いえ、そんな。またお弁当食べに来てくださいね」

「もちろん。サクラクックの弁当ウマイ」

 嬉しいな。そんな風に言って貰えるなんて。あたし張り切ってねぎを切るよ!
 味噌汁も渡したし、そろそろ帰らなくちゃ。お店、きっと忙しいだろうから。

「じゃ、失礼します」

 一礼して、自転車の方に歩き出す。来た時よりも軽やかに跨った。そしてあたしも颯爽と発進。漕いでるだけだけど。

「気をつけて」

 光太郎さんと店長さんは、2人で手を振ってくれた。恥ずかしくて照れくさくて、でもとっても嬉しくて。横断歩道を渡って反対側から見たら、まだこっちを見てた。ここからも見ても、どっちが光太郎さんか判るよ。

 来た道を、さっきと違った気持ちで走った。こういうの、魅了されたって言うのかなぁ。初恋にも似てるかもしれない、なんてね。何も分からないゼロからのスタートだけど。


 決めたよ、光太郎さん。あたし、バイクの免許を取る。


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