恋ごころトルク

 あたしは、まだ自分のバイクを持っていない。出かけるならば、レンタルを手配しなくちゃ。光太郎さんは自分のバイクがあるから良いけれど。

 光太郎さんのショップ、レンタルやってないんだもんなぁ。

「ああ、まぁ。今回は後ろ」

「……え」

「だから、後ろに……俺の後ろに乗れば良いじゃん」

 え……。え?!

 光太郎さんの後ろに!

「うっそ、いいの?」

 え、うそ。このタイミングで?

 なんだか片思いだった時のことを思い出してひとり顔を熱くしてしまう。うわあ。後ろ乗せてくれるんだ。おお……やばい。

「約束してたんだし……ごちそうさま!」


 返す言葉が見つからないうちに、光太郎さんは立ち上がって、食べた茶碗を流しへ持って行った。

「ねぇねぇ、忘れて無かったの?」

「なぁにがよ」

 腰に結んでいたつなぎの上に袖を通して、ボディバッグを肩にかけると、玄関へ行く。その彼の後を追いかけた。

「だから、約束したこと。後ろ、乗せてくれるって」

「仕方ないだろ。その、それと同時に怪我してたし、俺」

「それって? それってなによ」

「うるさい。もう行くからな」

「なによー! それって」

 キャーキャー言ってるあたしを無視して、光太郎さんは出勤してしまった。ひどいよね。無視して行くこと無いと思う。

 でも、やばい。楽しみすぎてきっと今夜から眠れない。当日まで寝不足が続いてクマが出来たらどうしよう。

「いってらっしゃい」

 もう出ていってしまってから言っても聞こえないと思うけれど、あたしはそうつぶやいた。

 光太郎さんのところとうちを行き来しているのはあたしだけじゃなくて、きなこも一緒。玄関で興奮してもだもだしてるのを見て、きなこが「ピヨッ!」と高く鳴いた。


 自分の身支度を整えて、光太郎さんのアパートを出る。

 なんでこのチョイスになったのかは謎だけれど、みかんのキーホルダーが付いた合い鍵をくれた。顔を真っ赤にして。

 その鍵をリュックに入れて、サクラクックへと自転車を漕ぐ。

 バイク、早く欲しいな。まだ買ってないもの。ふたりでツーリングに行けたら素敵だろうな。

 バイクを買ってもサクラクックに停めるところが無いから、結局自転車通勤になるんだけど。でも免許を取ったからには、感覚を忘れないうちに、バイクが欲しい。

 1度、光太郎さんの職場でバイクを見たけれど、なんかこう、呼ばれる1台に会わないんだよなぁ。なんてね。こんなことを言ってると「生意気だ」って言われる。

 ああ、楽しみ。光太郎さんの後ろに乗って、バイクでおでかけ。何を着て行こう。パンツスタイルだよね。バイクだもんね。雨降らないと良いな。ああもう、待ち遠しい。遠足を楽しみにしている小学生みたいだ。

「うふ、えへへ」

 ニヤニヤを噛み殺しながら、自転車を漕いだ。