「あ、あの」

「バイク、お探しですか?」

 や……違う。どう見ても違うだろ。

「あ、いえ、あの、先ほどお弁当を買っていかれたんですが、お味噌汁をお渡しするのを忘れてしまって……サクラクックです」

「お弁当?」

「つなぎの……」

「あ、整備スタッフかな?」

 そっか、ミナセのつなぎは整備の人なのか。なにがどう違うのか、あたしには分からないけれど。制服のTシャツは青だけど、つなぎは赤なんだね。

「ちょっとお待ちくださいね。呼んで来ます」

 あの、できれば光太郎さんを……いや、いいです。

 なめこの味噌汁を持ったまま、店内を見渡す。こういうところに初めて入った。車の免許を取ってから、実家の中古車をちょっと乗ってただけで、ほとんどペーパーだし、バイクなんて……自転車しか乗れない。

 ヘルメットとジャケット、サングラスやグローブ。あ、レディースのコーナーがある。そういうのあるんだぁ。ちょっとあそこ見たいな、どういうのがあるんだろう。


「すみませんー!」

 そう言いながら、別のドアからバタバタと入ってきた、背の高いつなぎの人。それは光太郎さんじゃなかった。40代くらいの、短髪の男性。

「お弁当これから食うところでしたー! すみません味噌汁もだったんすね」

 ここは背が高くないと入れないの……? 光太郎さんも高いけど、この人も高いな。あたし160cmだけど、この人は180cmくらいあるのかなぁ。光太郎さんもこのくらいあるよね。

「こちらこそお渡し忘れてしまって……申し訳ございません」

「取りに行ったやつ、いまちょっとそのへん回ってるんで、すぐ戻るんですけど……待ってます?」

「え? あの」

 なぜ待つ必要が? いや、会いたいけど。なめこの味噌汁を届けただけだから、そんなに長居するつもり無いんだけどな。お店に戻らないといけないし。

「ちょっと、ガレージの前にご案内します。整備のスタッフで食べるお弁当なんで」

 そのつなぎスタッフさんは、あたしからなめこ味噌汁が入ったビニール袋を受け取ると、外を指差した。なんでそうなるんだ……。まぁ良いか。ちょっと挨拶して帰ろう。邪魔になるから。