「お客様、真珠はどうやってできるかご存じですか?」

「ええっと、確か貝の中に何かが入るのよね?」

「はい。中に入って吐き出せない異物を長い時間をかけて包み込み、丸くなったものが真珠なんです」


 栄子主任の言葉に、おふたりは顔を見合わせてまた微笑んだ。

 30年。ひと言ではとても言い切れない、長い長い時間を歩んだふたり。

 たくさんの痛みや苦しみを内に抱えながら、それを少しずつ少しずつ包み込み、まあるく輝いていく。


 きっと……今度の痛みもまた……

 これまでのように包み込んで、さらに大きな輝きとなれるように……。


 ご夫婦は真珠のブローチをご購入された。

 真珠はとてもデリケートで傷付きやすいから、使用後は必ず専用のクロスで丁寧に拭く事、保存は他の宝石とは区分けしておくように等の説明を、真剣に聞いていた。

 そして来店された時のように、やっぱり仲良く肩を並べて帰って行った。


 あたしはご夫婦の背中を見送り、そして栄子主任を見た。

 主任はいつも通り全く変わった様子を見せず、伝票に記入している。


 痛いん……だろうな。とても。

 顔では笑いながら、内側では本当はとても痛い思いをしているんだろう。

 誰にも見せずに、密かに涙を流したことも、一度や二度ではないんだろう。

 でもそうやって少しずつ少しずつ、丸く、大きく輝いていく。


 …………。

 あれから晃さんから電話はかかって来ない。当然だけど。

 断らなければ良かった。食事の誘い、ウジウジせずに素直に受けるべきだった。

 バカだな。あたっして本当に。


 真珠の商品を元に戻しながら、自分の未熟さを痛感する。

 あたしは後悔という名の痛みを、いつか真珠のような大きな輝きに変える事ができるんだろうか……。