天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 あの指輪がただのオモチャのダイヤなことは、もちろん承知だ。

 でも母にとっては、あれが最高のエンゲージリングだったんだ。


 自分が心に決めた愛する男は、この指輪を自分へ捧げて永遠の愛を誓ってくれた。

 誰からも祝福してもらえない中で、贈られた指輪は最高の宝物だった。

 どんなに苦しい時も、この強い愛の証がそばにあった。


 本物のダイヤモンドなんて母には必要なかった。

 だってもう、母は欲しかった本物を手に入れていたから。

 たとえ世界最高峰クラスのダイヤモンドと並べられても、あのオモチャの指輪を選んだと思う。


 指輪は母の遺影の前に、お水と一緒に並んで置いてあるよ。

 メッキの剥げた、くすんだ色のオモチャのダイヤがね。

 終生、母が手放すことのなかった、本物よりも『これがいい』と選ばれたオモチャのダイヤモンドが。


 母と違って、オモチャの指輪よりも本物のダイヤモンドを選ぶ人もいるだろう。

 だって意味や価値は、本人が決めることだから。

 イミテーションだとか、本物だとか、そんなことはどうでもいい。

 それ自体に深い意味などない。


 だから俺は、聡美さんがイミテーションだろうとなかろうと関係ないんだ。

 キミが自分をイミテーションだと言うのなら、そうなんだと思うだけ。


 ただ俺は、キミがあのくすんだオモチャの指輪を『美しい』と思ってくれる人だと思った。

 その価値を認めてくれる、そんな人だと思ったんだ。

 自分の目で見て確かめて、自分で確信した。この女性こそがそうだとね。


 俺にとって大事なのはそれだけ。槙原聡美という存在そのものだよ。

 それ以外に俺に意味なんてないんだ。