お姉ちゃんも事件のショックから、一時的に引きこもりになっちゃって。
 娘ふたりに同時に引きこもられたお父さんとお母さんは困り果てて、ちょっと気の毒だった。
 なにしろお姉ちゃんは、私の怪我が自分の不注意のせいだと思って自分を責めている。
 確かにそれも一理あるけど、責任の大多数はあの変態にあるんだから、あまり深刻にならないで欲しい。
 ……ちくしょー。あの変態、もう二~三発蹴り入れてやりゃ良かった。

 べつにね、私もそう深刻に落ち込んでいるわけでもないのよ。
 みんなが心配するほどには、たぶん気落ちしていないと思う。
 今まで狂ったように固執していたメイクに拘らなくなった自分を顧みて、無駄なことをしていたもんだなぁって思うくらいだし。

 だって、ねえ? 塗って塗って、重ねて重ねて、ピリピリ神経質になってビクビク怯えて。
 だから、どうなのよ。塗れば顔面が変形でもするのか?
 結局なにも変わらない。
 塗って隠したところで、この顔の傷が消え去ることはないように。
 でもあの頃は、それだけが僅かな希望のようなものだった。
 今は、希望も意味も無意味もすべて失い、茫然自失なだけ。

 冷蔵庫の中の、たったひとつだけの卵。
 もしかしたらヒヨコが生まれてくるかもって期待して。
 無駄と知りつつその現実から目を逸らし、一生懸命手の平で温め続ける。
 でもいつまでたってもヒヨコは生まれず、ある日卵は、なるべくして目玉焼きになってしまいました。
 現実は目の前に。そして冷蔵庫の中はもうカラッポ。探したって何も入っていない。

 そんな心境かな?
 んー。我ながら変な例えねぇ。やっぱりちょっと参ってるのかな?
 今までの心境とギャップがありすぎて反動が来るのが少し怖い。
 ある日突然、出家とかしちゃいそうだ。