「ってか…
汗ヤバい…」
麗奈も、顔を汗が伝っている。
「あちぃよな…
今年の暑さは尋常じゃないと思う」
「たしか今日は36度じゃなかった?」
そりゃ暑いはずだ。
もはや体温じゃんか。
「あとあっち着いたらアイスでも食べね?」
「全部食べ終わる前に溶けちゃうよ」
そう、麗奈のもっともな意見が返ってくる。
「私の家で食べればいいって。
アイス、冷凍庫にストックあるよ」
「んじゃもらうわ」
この炎天下の中、アイスの所持者は神様女神様だ。
「もうすぐ着くね」
麗奈の視線の先をたどると、もう一つ目の駅はとっくに過ぎていた。
「はやいな」
ってか、麗奈の家は親が帰ってこないとか言ってたけど。
麗奈はずっと1人で暮らしてるのか?
高校生が…しかも女子。
絶対不便だよな、怖いだろうし。
呪い屋がいつ来るかわかんないし。
かえって母親なんか帰ってきた方が厄介だと思うし。
「…ターゲットは母親だけ?」
周りに意味が伝わってはまずい。
「うん」
麗奈は口元を少し歪めて頷く。
「お父さんは?」
「…知らない」
やけに素っ気なかった。
「帰ってこないの?」
「あんな人、帰ってきたら殺してやる」
「ちょ…」
公衆の面前でなんてこと言うんだ。
「…冗談だよ」
悲しそうに笑う彼女が、俺には優しいペテン師に見えて…
何か隠してるなって。
何か言いたくないことがあるんだなって。
そう思った。

