「いつかはお願いしますよ」

そう言って、わずかに微笑んだ。

二度目の麗薇の微笑み。

それは、俺が見てきたいろんな人たちの微笑みの中で、誰よりも重々しくて、でも綺麗な清らかな微笑みなんだ。

「じゃぁ、俺の味方になってくれるってことでいいよな」

交換条件。

こうでもしないときっとこいつは…

何も言わずに、俺の前から姿を消してしまいそうで。

「いいですよ。
黒田のことが好きなわけでもなければ、私は黒田の味方なわけでもない…
しょせん、縛られているだけなんですから」

その言葉にびっくりして、無理かと思ってうつむきかけていた顔をバッと上げた。

「そんなに嬉しいんですか?」

こいつは、やっぱりわかってる。

「それじゃ悪いかよ!」

挑戦的に言った俺に、麗薇はまた微笑んでくれた。

「いいえ」

そう言うと、

「いいえ。
正直少し、暖かいです…」

そして、俺の手にあまり生命力の感じられない小さな手をのせてきた。

生命力の感じられない…

その表現が一番正しいんだと思う。

人間でもない。

かと言って、俺が想像するような幽霊な感じでもない…

たしかに、体温はあった。

でも、なんとなく存在感が薄いんだ。

重ねられた手の、存在感が薄かった。

それで、いつかは自分で消すことになる命の儚さに、涙が流れそうになった。