*悪役オムニバス*【短編集】





あの塔で読んだ絵本ーーー。


街に現れて、財宝を奪い、最後にはヒーローによって倒される怪物。

自分もまた、そんな怪物の仲間なのだ。

ヒーローは、こんなおぞましい姿をしていない。


しかし。


「寂しいよお……」


寂しい。

寒い。

お腹も空いた。

だがきっと、ここには誰も来ない。

もし来たとしても、また、街にいた時の二の舞を演じることになるかもしれない。

結局、ここに居続けるしかないのだ。


ひくっ、と嶺子はまた啜り泣いた。


親もなく、部屋に閉じ込められていないといけない怪物。

ただ遊んで欲しかっただけなのに、気持ち悪いと罵られ。

挙げ句の果てには、自らの手で人を傷つけてしまった。

孤独が、嶺子を蝕んだ。








外を見れば、ちらちらと淡雪が降り注いでいた。

嶺子は長袖のシャツ一枚という薄着である。

凍てつく寒さには体がこたえる。

嶺子は体を震わせた。


ーーーーその刹那。


じゃり、じゃり、と誰かが、家を囲む砂利を踏む音がした。

それは次第に大きくなり、この荒屋に接近して来る。

そして、


「へっくしっ」


と、家の前で大きなくしゃみをした。