嶺子はふと、自分の手を初めて凝視した。
肌が、黒い。
人間らしい自然な肌の色なんかではなく、不気味なほどに、深い漆黒だ。
「う……」
嶺子は目を疑った。
いつも自分の顔を鏡で見ることはある。
しかしそのときは、いたってほかの人と変わらぬ肌色だ。
自分が、得体の知れない“なにか”に変わってしまった。
その事態に、嶺子自身が恐れおののいた。
踵を返し、嶺子は走り出した。
後ろで喚く不良少年の声を聞きながら、嶺子は隠れ場所を求めて走った。
なぜ、あの白衣の人々が自分を外に出さなかったのか、いまならわかる気がする。
自分は怪物だったのだ。
だから彼らは、他の人を傷つけないよう、自分をあの子供部屋に閉じ込めていたに違いない。
嶺子はそう考えた。
そして場所もわからぬまま走り続け、この竹林の中まで来たということだ。


