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「はっ、はっ、はっ……!」
嶺子は息を切らして走った。
塀を飛び越え、草むらをわけ、自転車を追い抜かし、とにかく走った。
ここがどこかは、嶺子には検討もつかない。
ただ、都市部から遠ざかっていることは把握していた。
古めかしい商店街を走りぬけ、見知らぬ住宅地沿いの道にでる。
そこから小さな用水路を越え、竹林へと飛び込む。
「はあ」
嶺子の口の中には、奇妙な味が広がっていた。
その鉄の臭にも似た真紅のそれは、嶺子の口いっぱいにこびりついている。
嶺子はその味を感じるたびに、嗚咽を漏らした。
魔物は彼らだったのではない。
自分が、魔物だったのだ。


