*悪役オムニバス*【短編集】




「ひっでー、泣かしちゃダメじゃん」


止めようともしないくせに、取り巻き達は猫なで声で囃し立てる。

自分がなにをしたと言うのか。

嶺子は涙にまみれた視界にうつる、少年たちの顔をみた。

彼らは魔物だ。

歪んだ笑みを浮かべ、いまにも拳を振るわんばかりの、凶暴な魔物。

こちらが何かをしたわけでなくとも、きっと相手からしかけてくるものなのだ。

そんな魔物たちの声が飛び交うなか、ふっと、少年の手が伸びて来た。


「ひっ」


嶺子は戦慄する。

今度こそ身の危険を感じた。

これ以上はなにをされるかわかったものではない。

それくらいは、嶺子くらいの年でも感知できた。

よく人を殴っているのだろう、傷のついたごつい手が、嶺子に迫る。


(やめて‼︎)


嶺子はとっさに、伸びて来たてに向かって、顔を突き出した。



















ぶちゅり。