とにかく狭いところに行こうとした。
いまは誰の目にもつきたくはなかった。
畳まれてしまった店の間にある、狭い路地に駆け込む。
すると、不意に嶺子は何かにぶつかった。
同年の子どもでは決して弾き出せないような速さで走っていたのだ。
死角である曲がり角の先で誰かとぶつかってしまっても、無理はない。
勢い余って、嶺子は後ろに転がった。
「いってえな」
嶺子の前で、路地にいた『もの』が悪態をついた。
黒い服を着て、腰には重量感のあるチェーンをつけている。
縦一列に並んだ黄色のボタンは、すべて外されていた。
嶺子にとっては奇妙な格好だった。
おまけに、その太い指には、異臭を放つ白い棒が挟まれている。
そんな黒服の男たちが、何人もそこにたむろしているのだった。
「うっ」
嶺子は嗅覚が鋭い。
刺激の強い異臭に、嶺子は鼻が曲がりそうだった。
しかしその異臭よりも、目の前にそびえ立った厳つい黒服の男たちが、恐怖だった。


