風がない夜。


 こういう日は特に、いろんな音が聞こえてくる。


 とても静かだから、普段は聞こえない音もよく聞こえるんだ。


 たとえば、赤ちゃんの泣き声や、小さな虫の鳴く音。


 どこか遠くの喧騒まで、響いて聞こえる。


 ……自分の心の声まで、聞こえてきそうだ。


 こんな夜に、どうしてイチがここに来たのかなんて、聞かなくてもわかる。


 大方、お母さんがいつものように、わたしのことをイチに頼んだんだと思う。


 夜なのになにも言わずに家を抜け出して、心配されないはずがないから。


 もともと心配性な人だったけど、ミヅキがいなくなってからは、それに拍車がかかったみたいだった。


 心配かけて、こうしてイチに迷惑かけて、本当に自分ってどうしようもないなと思う。


 でも、許してほしい。


 わたしだって、もうどうしたらいいか、わからないんだから。