彼女が、顔をしかめた。

それすらも愛らしいが、どうやら忘れられてしまったらしい。


それならどうして、ここに居るのだろう?

彼女と反対方向に首を傾げた時、彼女は肩から下げてあるカバンから、一冊のノートを取り出した。


随分と古びたノートで、手垢がついている。

目の前の美しい女性とは、あまりに不釣り合いだった。


忘れたならそれでいい。くどいようだが、昨日の晩飯すら思い出せないのだから、一年前の戯言なんて。僕はまた彼女と会えたことで、それだけで充分だ。

じゃ。


彼女に背を向きかけた時。

「あぁ、あなたは去年の」


相変わらず、竜舌蘭は無愛想だが、また彼女の顔にパッと花が咲いた。



僕の心が、踊るほどに。

「約束、覚えてくれてたのね?」

「うん、覚えていたというより、少し前に急に思い出したというか」

「でもまだ花は咲いてないわ」

「今年こそ、その100年目だよ」


僕がそう言うと、彼女はノートを覗き込み。

「希望的観測‼」


ビンゴ‼のニュアンス。

それからも竜舌蘭の下で、色んな話をした。

わずかな、違和感を抱えながら。