「食事の用意ができましたよ」
満ちるが言った。
僕が食卓に向かうと、テーブルの上には
僕の好物ばかり。
「随分と豪勢だなぁ。さっそく頂こう」
ビーフシチューは満ちるの得意料理。タンの柔らかさまで、同じじゃないか。
「これはなんの天ぷら?」
「モロヘイヤです」
「うん、美味しい」
僕は満ちるに微笑みかけた。
満ちるも、微笑んだ。
それもそうだ。
僕のサーモグラフィーに反応し、微笑むことになっている。
「片付けたら散歩に行こう」
「はい」
従順な満ちるは、僕の隣で歩く。
少し遅れる歩調も、もちろん機能に追加した。
外見から声、肉厚にいたるまで満ちるを再現したロボット。僕は再構築したんだ。亡くなった、自分の妻を。
記憶をなくすこともない、決して僕より先に逝かない妻。
「少し、寒いわ」
体温調節も人間と同じ。
「これを着るといい」
上着を掛けてやり、微笑む。
すると、満ちるも微笑む。
それだけのことで、僕の心の穴は埋まるような気がした。
穴がなくなるのではない。
ただ埋まるだけ。
それでも良かった。
満ちるに、感情はないのだから。