満ちるは四倍の早さで生きる。

だからか。


一年毎に会う彼女は、少女から女性へと憂いを帯びていたんだ。

年下だった彼女は間もなく、年上となる。


僕たちが夫婦となり五年。

満ちるが記憶をなくすたび、なにかが壊れていく。僕は、それを繕うのに必死だった。


このままいけば、夫婦でなくなる。

それでも僕は____。


「まだ咲かないね?」



満ちると一緒に、Century Piantを見上げた。

歩くのも覚束なくなった、僕の妻。


満ちるは、僕の母親の年齢になっても、とても美しかった。

「明日がその百年目かしらね?」


「きっとそうだよ」

僕は満ちるに笑いかけた。


花は咲かなくても、竜舌蘭。君は満ちるに笑顔をくれる。

年老いても、愛に溢れた笑顔を。


それから少しして、満ちるは病を患った。

激しい痛みが伴う病。満ちるの命はあとわずか。


そして。

またあの日がやってくる。


満ちるが、記憶を失う日____。



僕はどうしたらいい?

君に、覚えていてほしい。


けれど。

君に、病を忘れてほしいんだ。



満ちる、僕はどうしたらいい?