「私は…一年に一度、記憶を失うの。それはもう、潔いくらいに」

すでに涙の跡が乾いた満ちるは、どこか開き直った表情で語った。


パタリと、それまでの記憶がなくなるのだと。

手がかりは一冊のノート。

「だから、なにもかも、書き溜めておくの。今はパソコンとかあるけど、自分の字は信頼できるから」


ほら、と見せてくれたページ。

[竜舌蘭][花][口説く][ロボット][希望的観測]


僕についてが書かれている。

満ちるは記憶をすべて失い、一からまた作り上げるんだ。自分の筆跡だけを頼りに。



なんて脆く、心細い作業なんだろう。

僕の胸が痛んだ。


だが満ちるは、ノートを閉じたんだ。



記憶のノートを。

「また私は、あなたのことを忘れる。私は忘れ続けるの」


だからもう_____。


「それなら僕が口説くよ。君が忘れるたびに、何度でも、何度でも」

永遠に。


「もう、ノートに書かなくてもいい。これからは、僕が君のノートになるよ。僕を1番に、信用してほしい」

「私は…忘れるのよ?」

「僕が口説くから大丈夫」

「それもまた忘れるのよ?」

「忘れてもいい。僕はずっと、君の隣にいるから」



それが僕の。

いや僕たちの、始まりだった。