「………ナ…」

「ん? どうした?」



ハルの声に驚いて、伏せていた顔を上げるけどハルは眠ったままだった。

ただ、何の夢を見ているのか、目を閉じたまま幸せそうに、にこぉっと笑った。



「ハール」


嬉しくて、ささやくように小さな声で思わず、ハルを呼んでみる。

ハルが起きる気配はやはりなかった。



オレは少しだけ大胆になり、そっとハルの手を取り頰にあてた。

細っそりとした指先は、相変わらず冷たい。

しばらく両手で包み込んだ後、そっとハルの手を戻すと、今度は柔らかく広がる髪に手を触れた。

ゆるい曲線を描く髪の毛に覆われるのは、整った白い顔。

驚くほどに長いまつげの下には、こぼれ落ちそうに大きな瞳が隠されている。

小ぶりな赤い唇からあふれ出すのは、いつだって優しくて暖かい言葉ばかり。



ハルの寝顔を見つめていると、心の中が愛しさでいっぱいになる。



「ハル、大好きだよ」



声に出しすと更に愛しさが溢れ出して、オレの身体のすべてがハルへの想いで満たされるような気がした。



「ずっと、……ずっと一緒にいようね」



思わずハルの耳元で囁いてみると、

夢の中でオレの声が届いたのか、ハルがまたふっと頰を緩めた。




窓から入る風が、かすかに頬をなでていく。

午後の日差しが、レースのカーテン越しに部屋にゆるやかな陰影を作る。



ようやく、

今度こそ、ようやく落ち着いた日々が戻ってくる気がした。



オレはハルが目覚めるまでの小一時間、幸福感に満たされ、飽きることなくハルの寝顔を眺め続けた。


(完)