言いたいことは言い切った。

ちゃんと通じたか、正直自信はない。けど、もうこれで良い。

これでも何かしてくるなら、後はもう明兄の仕事だ。



「でも……じゃあ、どうすれば」



一ヶ谷の兄貴が戸惑ったように、そう言った。

正直、一ヶ谷悟の兄とは思えないくらい、しっかりした、至極真っ当な人だった。

巻き込まれたこの人には、ただ気の毒だという感想しかない。



「別に何もしなくていいよ」



オレはそう言うと、隣の篠塚に視線を移した。



「ただ、あんたには、二度とハルに近づいて欲しくない」



ハルは何も言わない。
誰かを悪く言うところなんて、見たこともない。

今回のことでも、恨んだり文句を言ったり、報復を考えたりしたっておかしくないのに、ハルはむしろ、二人を庇っていた。

昨年、ハルを生死の境にまで追いやった田尻とすら、ハルは仲良くしている。

否定はしない。

正直、苦々しい想いはあるけど、

ハルが傷つかないなら、ハルが幸せなら、ハルがそうしたいのなら、オレは見守るだけだ。



けど、この女は相手から寄ってこない限り、接点はない。

10分や20分話したくらいで、改心するような人間には見えない。
改心させるために時間を取る気もない。

オレは、自由になるすべての時間をハルと過ごしたい。