「ちょっと、いい加減にしてくれない? あんた、一ヶ谷悟のくせに、どんだけ待たせんのよ」



不機嫌そうに早く言えと繰り返す篠塚先輩に、早くも気力が萎えそうになる。

本当の要件を口にしたら、いったいどうなるのだろう?

でも、もう後には引けない。

なぜって、少し高めのパーティションの向こうには、こちらの様子に耳を澄ませる広瀬先輩たちがいるんだ。



「別にオレは、お前たちが退学になろうが、あの女が二度と表を歩けないような目に遭おうが、かまわないんだけどな」



淡々と、むしろ微笑すら浮かべた優しく甘いお兄さんの声に、オレの背筋はまたしても凍りついた。

今朝の話だ。

思い出しても、空恐ろしい。

退学はともかく、二度と表を歩けないって……。

しかし、この人がやると言うならやるのだろう。
それだけのツテを持っているのだろうと、もうオレは分かっている。

陽菜ちゃんのお兄さんに比べたら、篠塚先輩なんて可愛いもんだ……多分。

オレは怒りのオーラを撒き散らす先輩を相手に勇気を振り絞った。



「先輩!」

「な、何よ」



いきなり大きな声を上げたオレに、先輩が一瞬ひるんだ。



「陽菜ちゃんのことなんですがっ!」

「…………はあっ!?」



その名前を聞いて、先輩は心底嫌そうな顔をした。



「あのですね、二度と陽菜ちゃんと広瀬先輩に近付かないで欲しいんですけどっ!!」