すっかりテンパっていたオレ。

後は、お兄さんの言うなりだった。

横から囁かれる言葉をひたすら繰り返す。

気がつけば、日曜日の午前中、篠塚先輩と会う約束を取り付けていた。


ようやく電話を切り、脱力したオレは、勧められてもいないのに沈み込むようにソファに座った。

それを面白そうに見て、実に意地の悪い笑みを浮かべた後、お兄さんは思いもかけない言葉を言った。



「叶太」



……は? 今、なんとおっしゃいました?

思わず、勢いよく顔を上げると、執務机の向こうから、かつての恋敵、広瀬先輩が現れた。



「……なんで?」



呟くと、広瀬先輩は呆れたように言った。



「ハルが許しても、オレは正直、はらわた煮えくり返ってるんだ。

せめて約束の行方くらい見届けさせてもらおうと思ってね」



うっ……と言葉に詰まっている間に、広瀬先輩は壁の時計を見て、お兄さんに話しかけた。



「明兄、そろそろ行くね。もうすぐ予鈴なるし」



あきにい。

そうか、陽菜ちゃんと広瀬先輩は幼なじみだ。お兄さんとも仲が良くてもおかしくないんだ。

なぜか、すごく追い討ちをかけられたような気分になった。



「ああ、後は頼むぞ」

「了解」



……あ、後って、何!?

質問する前に、広瀬先輩に頭を小突かれた。



「行くぞ」