思わず、その傷には触れないでくれとばかりに机に突っ伏すと、



「あー、悪い悪い」



と水森は、半分笑いながらまるで悪いと思っていない口調で言った。

更に傷口をえぐられた。

どうせ、他人の不幸は蜜の味さ。



「まあ、さ。広瀬先輩の熱愛は有名だし。あの人、何気に黒帯だし、ケガもなく終わって良かったじゃん?」

「ケガして陽菜ちゃんが手に入るなら、ケガくらい……」

「……てか、お前、全然諦めてないんだな」



水森は呆れるでもなく、むしろ尊敬の眼差しという目でオレを見た。

けど……。



「諦めたよ。……ちゃんと、諦めた。

陽菜ちゃんを困らせたいわけじゃないし、ちゃんと振ってもらえたし」



小声でそう言うと、水森はポンとオレの肩を叩いた。

声にならないエールを感じる。

良かったななのか、元気だせよなのか、人生いろいろ……なのか。

思えば入学からこの方、陽菜ちゃんしか見えていなかった。

そんな状態だから、横恋慕に邁進するオレを面白がってちょっかいかけて来るヤツはいたけど、陽菜ちゃんへの気持ちを真摯に誰かと話したりする機会はなかった。

ようやく区切りを付けた気持ちを誰かに語りたいと思っているわけではない。

でも遅ればせながら、これからは、もう少し他のことにも目を向けていこうと思ったのだった。