それから、田尻さんは、
「言いたくないなら、別にいいよ」
と、プイッと視線を外した。
その声と仕草が、ちょっと怖くて、慌てて、答えた。
本当は怖くなんてないって、もう知っていた。
でも、まだ、その頃は身体が、過去の恐怖を忘れていなかった。
「ううん。聞いてもらって、大丈夫だよ」
「いいの?」
「うん。何が知りたいの?」
「何がって、さっき言ったじゃん。
心臓が悪いって、どんな感じ?」
そう繰り返されて、わたしは答えに詰まってしまった。
こんな話、誰ともしたことがない。
カナは、昔からずっと側にいて、わたしの身体のことは、よく知っている。
今さら、こんなことは聞いてこない。わたしも話したことはない。



