13年目のやさしい願い



それから、田尻さんは、



「言いたくないなら、別にいいよ」



と、プイッと視線を外した。

その声と仕草が、ちょっと怖くて、慌てて、答えた。

本当は怖くなんてないって、もう知っていた。

でも、まだ、その頃は身体が、過去の恐怖を忘れていなかった。



「ううん。聞いてもらって、大丈夫だよ」

「いいの?」

「うん。何が知りたいの?」

「何がって、さっき言ったじゃん。

心臓が悪いって、どんな感じ?」



そう繰り返されて、わたしは答えに詰まってしまった。



こんな話、誰ともしたことがない。

カナは、昔からずっと側にいて、わたしの身体のことは、よく知っている。

今さら、こんなことは聞いてこない。わたしも話したことはない。