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夏真っ盛り。
夜8時になっても、大気は暑さを残している。
おにぎり屋は忙しい一日を終了したところで、
うららは暖簾をしまう為に外に出た。
そこに、汗を拭き拭き走ってきた、中年サラリーマンが。
「うららちゃん、もう閉店?
あ〜、間に合わなかったか〜」
残念そうに言ったのは、馴染みの客だった。
うららは店内に向けて聞く。
「ばあちゃん、お客さん来た!
まだいいよね?」
梢は片付け終わったばかりの作業台に、再びおにぎりの道具を引っ張り出す。
それから、
「いいよ、入んなさい」
そう言って、客を中に迎えた。
単身赴任でこの街に来ている男性客は、昼も夜もおにぎり屋に足を運ぶ。
狭いカウンター席に座り、夢中でおにぎりを頬張り、
あさりの味噌汁をズズズと啜っていた。
「栄養が偏るから、これも食べなさい」
梢が出した物は、いんげん豆の胡麻あえと、根菜の煮物。
それは、うららと梢、二人の晩御飯にする予定のものだった。
遠慮する客に、
「いいから食べなさい」
と、梢は金も取らずに食べさせた。


