母親についても書かれていた。
教団信者、丸山陽子、事件当時28歳。
娘は聖女として、湯傘同様信仰の対象であったが、
母親は何の身分もない、末端信者であった。
湯傘は愛があって、丸山陽子と肉体関係を持った訳ではない。
彼女はただ、教祖の子供を産む役割を持っていただけであった。
末端信者に過ぎない丸山陽子は、逮捕されなかった。
事件現場には行かず、作戦にも参加していないと確認できたからだ。
彼女は今も、どこかで暮らしている。
転居した後行方が掴めず、居所は4年前から不明となっていた。
9ページに渡る、聖女アバタリについての記述の後半に、
4年前、湯傘隆重に死刑判決が下された時、
彼が語った言葉が印されていた。
『我の魂は滅びぬ。神が我を必要としているからだ。
我は死した後、数年で蘇る。
娘の腹を借りて、再びこの世に生を受ける。
その時こそ、この世は滅び、我々の楽園が生まれるのだ』
娘の腹を借りて…
それはつまり、桜庭うららが将来的に生む子供が、自分だといいたいのか…
その裁判は、傍聴人を入れずに行われた。
湯傘の言葉は信者の耳に入っていない。
機密事項に加えられたその言葉が、万が一にでも漏れたなら…
信者達はアバタリを捜し、奪還しようとするかも知れない。


