梢が言う。
「うちの娘に、手を出さないでおくれよ。
あんたは恩人だが、嫁にはやらないよ。
この店の名前は“おにぎり屋本舗うらら”
うららの居場所は、ここにしかないんだ。
うららはここにいる。これから先もずっと、一生」
うららは困っていた。
小泉がなぜ触ってきたのか知らないが、
下心はないと分かっているからだ。
下心どころか、不機嫌にさせてしまったように感じていた。
うららが何か言う前に、小泉が立ち上がった。
「旨かった」
それだけ言って、多めの代金を置き、帰ってしまった。
店の引き戸が閉まってから、
うららは眉をハの字に下げて言う。
「ばあちゃん、あのね、違うよ。
小泉さんは、別に私のことなんて…」
「分かっているよ、そんなこと。
さあて、ばあちゃんは用事を思い出したから、ちょっくら出かけてくるよ」
「どこに?」
「杉村の坊やの所さ」
梢が店から出て行った。
うらら一人だと、狭い店舗が広く感じた。
うららは急に不安になる。
一人ぼっちになってしまった気分になる。
店を空にする訳に行かず、梢を追いかけられない。
今は両手で、自分の体を抱きしめるしかなかった。
――――…


