幕末オオカミ 第二部 京都血風編



小さな音を立てて離れていった総司は、そんなことを言う。


仕方ないじゃない。


あんたのことを想うと愛しくて切なくて、自然に涙がでてきちゃうんだもん。


「……取り込み中、申し訳ないが」


「わああっ!」


突然すっとふすまが開いて出てきたのは、斉藤先生だった。


彼は涼しい顔で、真っ赤なあたしたちを見つめる。


「一番隊隊長、隊士が探していたぞ。

別れが名残惜しいのはわかるが、さっさと準備を終わらせてくれ」


そうだった。今は、隊士全員出陣の準備で大忙しだったんだった。


斉藤先生自身も忙しいみたいで、予備の刀を何本も抱え、廊下を走っていった。


「すまん。すぐに行く」


逢引きの場面を見られて気まずかったのか、総司はさっとあたしから離れ、刀を腰に差して部屋の外へ出ていく。


「あ……総司!」


「ん?」


「そういえば昨日、局長の前で話そうとした大事な話って何?」


「ああ……」


総司は思い出したように天を仰ぐ。


その横を、平隊士が防具を持って走り去っていった。