……それは、少し前のこと。


あたしは、平助くんに呼び出された。


『俺、隊士募集のために江戸に行くことになったんだ』


『えっ、そうなの?』


額の傷もだいぶ良くなってきたし、仲の良い隊士のひとりである彼が遠くへ出張してしまうのは寂しくもあり、心配だった。


『うん……失恋の痛手で決心しちゃった。なんて、それは冗談だけど』


平助くんは笑って……ふと、表情を暗くした。


『あのさ……山南さんのこと、よろしく頼むよ。

どうも、夜眠れないみたいなんだ。

六角獄の悪夢にうなされるみたい』


『あ……そうか。ひどかったもんね。あたしもたまに、夢に見るもん』


『楓は総司の腕枕があるから安心だろー?』


ぽっと赤くなるあたしの頭をなでると、平助くんはすぐに手を離す。


『しんぱっつぁんや左之さんも、外に連れ出そうとか色々してるみたいなんだけどさ……

山南さん、人に心配かけるのが嫌で弱音を吐かないみたいなんだよね。

全部自分の中にため込んでるみたいでさ……心配なんだよ。

いつか、ぱーんってなっちゃわないか』