「そうして迷った時に必ず、山南の声が聞こえるんだ。
もう戦いからは手を引け……って」
そうなんだ……。
きっと、山南先生の最後の想いが、ちゃんと槐に届いていたんだ。
「そういうわけで、あたしは手を引く。
あんたと会うのも、ここに来るのも、これきりだ」
「そう……一族からも抜けるの?大丈夫?」
「あんたに心配されるほど、落ちぶれちゃいないよ」
槐はそう言うと、そっけなく背を向ける。
すると、近くの茂みから音もなく、一人の男が姿を現す。
たしか、槐の仲間の小次郎だ。
初めて日の光の下で見た、髪を短く切ったその顔は、前に会った時よりも少し男らしくなったように見えた。
ずんずん茂みの奥に消えていく槐。
彼女の代わりに小次郎はぺこりと頭を下げた。
そして、槐を追いかけて彼も消えていく。
「……あいつ、なんだかほっとしたような顔をしてたな」
二人の姿が見えなくなったとき、総司がつぶやいた。
「きっと、小次郎はずっと槐を見守ってきたんだね……」
島原で遊女の真似事をして、人を傷つけるためにもののけを操って……槐がそんな生活から抜け出すことを決めてくれて、良かったと思っているんだろう。
「きっと、山南さんも同じような気分なんだろうな」
総司に肩を叩かれ、そっと山南先生の墓石に向かう。
そこには、小さく可愛らしい山の花々が、供えられていた。



