幕末オオカミ 第二部 京都血風編



「おい、やめんか!」


上様のお声がかかり、それ以上の暴力はふるわれなかった。


しかし、無防備だったあたしは口の端を噛んでしまい、そこに血がにじむ。


「血だ……」


松本さんが言うと、他の二人もハッとした顔でこちらを見つめた。


「上様、口に含んでみてください」


「って……このままか?」


「早くせねば、血は乾いてしまいます」


「そうか……許せよ、楓」


上様はそう言うと、そっと立ち上がり、優美な歩き方であたしに近づいてきた。


目前にひざまづくと、彼の膨れてしまった指先があたしの後頭部を抱え、その顔を近づけてくる。


なめられる。そう予感したあたしは、ぎゅっと目をつぶった。


そっと、口の端に口づけるように、上様が唇を寄せる。


そしてにじんだあたしの血を、ぺろりとなめてすぐに顔を離した。


目を開いて見たその顔は、少し赤みがさしたように思える。


え、そんな少しでもう効いたの?血のめぐりが良くなった?


「……御台には言うなよ」


上様は、他の二人に向かってぼそりと言った。


ああ、御台様……正室の和宮様と上様って、すごく仲がいいんだって聞いたことがある。


あたしに口付けまがいのことをしたことを、御台様には知られたくないんだ。