幕末オオカミ 第二部 京都血風編



「そうだよな!愛する楓がいるってのに、置いていって狼になるなんて言ったら、俺が張り飛ばしてやるぜ!」


永倉先生ががははと笑った。


あ、愛する楓って……なにそれ。恥ずかしい……。


「……あなたは、岡崎を抜けたくノ一ですね。あの女が、そう言っていた」


あの女、とは槐のことだろう。


銀月さんの青い瞳にじっと見つめられると、みんなに秘密にしているあたしの血のことまで、すべてを見透かされそうで怖くなる。


総司の横で身を固くしていると、その手をそっと、温かくて大きな手に包まれた。


「総司……」

「心配するな」


それだけ言うと、総司は銀月さんに向かって言う。


「銀月……とやら。

俺は、この女と一生添い遂げると決めたんだ。

だから、狼になることも、もののけの子孫を残すこともできない。

悪いが、帰ってくれ」


ぎゅっと、あたしの手をにぎる手に力がこめられる。


総司……。


あたしは黙って、その手を握り返した。


総司だって、人狼として人の世で生きるのは、不安もあるはずだ。


だけど、それよりもあたしの不安を、ふりきろうとしてくれているんだね。


「……今は、何を言っても無駄なようですね」



銀月さんは小さなため息をつくと、すっと立ち上がった。

そして、ふすまを開け、広間をあとにしようとする。

その姿が消える前、ふと彼はこちらを振り向いた。


「あなた様に拒絶されようとも、我々はあなたの敵ではありません。

もし何か相談がありましたら、いつでもお呼びください。

私は、あなた様の近くにいます」


それだけ言って、銀月さんは屯所から姿を消した。