「そうだよな!愛する楓がいるってのに、置いていって狼になるなんて言ったら、俺が張り飛ばしてやるぜ!」
永倉先生ががははと笑った。
あ、愛する楓って……なにそれ。恥ずかしい……。
「……あなたは、岡崎を抜けたくノ一ですね。あの女が、そう言っていた」
あの女、とは槐のことだろう。
銀月さんの青い瞳にじっと見つめられると、みんなに秘密にしているあたしの血のことまで、すべてを見透かされそうで怖くなる。
総司の横で身を固くしていると、その手をそっと、温かくて大きな手に包まれた。
「総司……」
「心配するな」
それだけ言うと、総司は銀月さんに向かって言う。
「銀月……とやら。
俺は、この女と一生添い遂げると決めたんだ。
だから、狼になることも、もののけの子孫を残すこともできない。
悪いが、帰ってくれ」
ぎゅっと、あたしの手をにぎる手に力がこめられる。
総司……。
あたしは黙って、その手を握り返した。
総司だって、人狼として人の世で生きるのは、不安もあるはずだ。
だけど、それよりもあたしの不安を、ふりきろうとしてくれているんだね。
「……今は、何を言っても無駄なようですね」
銀月さんは小さなため息をつくと、すっと立ち上がった。
そして、ふすまを開け、広間をあとにしようとする。
その姿が消える前、ふと彼はこちらを振り向いた。
「あなた様に拒絶されようとも、我々はあなたの敵ではありません。
もし何か相談がありましたら、いつでもお呼びください。
私は、あなた様の近くにいます」
それだけ言って、銀月さんは屯所から姿を消した。



