「……慌ただしかったけど、これで良かったのかもな」


総司は空から落ちてくる桜の花びらを見上げ、ぽつりとこぼした。


「うん……」


壬生の屯所は、山南先生との思い出が、たくさんあるものね。


思い出すたび辛くなるのは、あたしだけじゃない。


まさか、今年の花見がこんなに切ないものになるなんて、予想もしていなかった……。




山南先生が切腹し、総司が介錯を務めたあと……。


小次郎が呆然とした様子の槐を抱えるようにして、川に用意してあった船に乗り込み、京を去っていった。


海のもののけたちも一緒に退散して、静かになった河原に、あたしたち新撰組と例の狼だけが残された。


『今宵はこれにて幕としましょう。……では、またいずれ』


狼はそれだけ言うと、闇夜の中に姿を消してしまった。


今思えば、山南先生の突然すぎる死に衝撃を受けたあたしたちと、ちゃんとした話はできそうにないと判断したのかもしれない。


とにかく、そのまま彼は姿を現さなかった。