「副長!」


斉藤先生が叫んだ。


周りを囲んでいたもののけの群れから、ひとつの影が飛び出したから。


それは、山南先生だった。


彼は副長めがけて、ヒレの鎌を振り下ろす。


それを合図にしたように、他のもののけたちもいっせいにこちらに襲いかかってきた。


「ちっ……!」


──ギイン!


ヒレの鎌と副長の刀が火花を散らす。


「くそっ。お前ら、邪魔だよ!」


平助くんはそう叫ぶと、何もない空間で刀をぐるりとなぎ払う。


するとその刀から発生した冷気が氷の壁を作り、もののけたちを押し返した。


反対側にいたもののけに向かい、斉藤先生が刀を手に走る。


その間にも、理性を失った山南先生と副長が、つばぜり合いのように至近距離で押し合う。


「山南さんっ……いい加減に、しろよ……!」


強い力の押し合いで、副長の刀の鍔がかちかちと鳴る。


「そんなに……俺が憎いかよ、山南さん!」


あたしは耳を疑った。


あの鬼の副長が、泣きそうな顔をしている。


その喉から出ているのは、嗚咽のようにも思えた。