「だってきみは、私の寂しさを忘れさせてくれたんだ」


「はあ?あんなの全部お芝居よ。

くノ一は誰だって、あれぐらいできるの」


「芝居はうまくなかったよ、きみは。

最初から、遊女にしては踊りがたどたどしくて、笑いをこらえるのに必死だった。

不自然な京言葉も、お世辞にも上手とは言えない句作も、すべてが可愛かった」


ってことは……山南先生はずっと、槐が本当の遊女じゃないって気づいていたの?


彼の腕の間から見える槐の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「私だって、きみが何者か探るために近づいた。

だけど、その必死さや寂しさに気づいてからは……どうしてかな。

本気できみのそばにいたいと思うようになっていたんだ」


あたしと総司は、山南先生の穏やかな顔色をじっと見つめていた。


小次郎も、相変わらず静かに事態を見守っている。


けれど、槐が何か言い返そうと顔をあげた、そのとき……。


じゃり、と足元の小石を踏む音がした。


そちらを振り返ると、あたしたちの背後に……平助くんと斉藤先生を連れた土方副長が、槐の方をにらんで立っていた。