槐の言う通りだ。


あたしだけすべて忘れて、幸せになるなんて……。


「もういいだろう、槐。

復讐なんて、やめるんだ。

そんなことをしたって、陽炎という男は戻ってこない」


陽炎とは直接会ったことのない山南先生が、落ち着いた声音で槐に言い聞かせる。


「そんなことはわかってるよ!

でも、こいつらに復讐しなきゃ、私は前に進めないの!」


「そんなことない」


山南先生はそう断言すると、ぐいと槐の腕を引き寄せ……その手を離したかと思うと、動く左腕一本で、槐を強く抱きしめた。


「わかっていたよ。

きみが、ずっと寂しそうな、悲しい目をしていたこと」


優しい声が、闇夜に響く。


「それが他の男を思っていたとしてもかまわない。

自分が新撰組の情報源として利用されていたとしても。

私は……孤独なきみの力になりたい」


「な……何を言って……」


抵抗しようと思えばできるはずなのに、山南先生の心からの声が、槐の動きを制限しているようだった。