「大好きですっ、山南先生!」


後ろから抱きつくと、くすくす笑いながら彼は答える。


「はいはい、離れておくれ。文が書けないから」


「あたし、手伝いますっ!」


山南先生が書状の内容を考えているあいだ、あたしは超高速で墨を磨る。


「るんるんるん♪」


「俺も行きたいけど……ムリですよね」


シャコシャコ墨を磨るあたしの横で、平助くんが不満をあらわにして、ため息をついた。


「すまん、平助。

屯所の守りが私と病人・怪我人だけじゃ頼りないからね」


「ちぇっ……みんな、楓に甘いんだよなあ」


「お前だってそうだろう」


たしかに、と平助くんはあきらめたようにうなずいた。


そうだよね……二人だって、本当は仲間と一緒に戦いたいんだよね。


あたしばっかりわがまま言って、今更だけど恥ずかしい……。


「そんな顔しないで。

俺たちのぶんまで、しっかり働いてきてよ」


平助くんはあたしの肩をたたき、笑った。


そうしてあたしは二人の好意を受け取り、一人九条河原に向かうことになった。