「……岡崎一族は、陽炎様があんたを連れて帰れなかったことで……幕府に手を切られたんだ」
「それって……」
「幕府からの仕事が、いっさい来なくなったってこと」
そんな。
家康様の時代から岡崎一族に仕事を依頼していた幕府が、手を切ったなんて……。
「そんなことになったら、忍たちの仕事がなくなっちゃう。
みんな生活していけなくなっちゃうじゃない……」
「そうよ……大奥から逃げたあんたのせいでね!」
槐の低い怒鳴り声が、胸に容赦なく突き刺さった。
あたしのせいで、陽炎だけじゃなく、岡崎の忍たちまで不幸にするなんて……。
呆然と立ち尽くすあたしに、槐がつかつかと歩み寄ってくる。
あたしの前にいる山南先生には目もくれず、目の前までやってきた彼女は……その細い右腕を振り上げた。
──殴られる。
そう思っても体は動かず、ぎゅっと目をつむる。
けれど、予期した痛みはなかなか襲ってこなかった。
その代りに、ぱしっと音がして、目を開く。
「や、山南先生……」
「明里……いや、槐。やめなさい」
山南先生は左手で槐の腕をつかんでいた。



